無肥料(無施肥)栽培の養分供給

2020年4月1日

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自然科学の未知領域といえば、どうしても宇宙のような広大で壮大なスケールの次元を想像してしまいますが、どうやら僕たちの超身近にある土と密接な関わりのある微生物の世界も、かなり未知な世界なようです。

僕はこういった自然科学というものを専門に学んで来たわけではなく、独自に書籍を読んできただけなので、土壌学やら生化学やら微生物学などについては全く門外漢なわけですが、農業を生業とする人間のひとりとして、土の中で何が起こっているのかということは考えないわけにはいきません。

リグニンを分解する白色腐朽菌

うちの畑では、微生物の餌として生のままの高炭素有機物をC\N比(窒素炭素比)の高い状態で土の表層(好気的環境)に混ぜこむことを除いては、畑に資材を投入することはせず、一切の肥料(化学肥料や有機質肥料)も入れず、堆肥さえ使用しない方針で土づくりをしています。

一般的には、落ち葉や木材チップ、籾殻といった高炭素有機物のうち、難分解性のリグニンを分解することができるのは、いちおうは「白色腐朽菌」と呼ばれる菌類(カビ・キノコの仲間)と言われています。

たとえば、椎茸やえのき茸、舞茸の類でしょうか。「いちおうは」と書いたのは、細菌類でもリグニン分解能をもったものが存在するという趣旨の論文を見たことがあることと、現時点で微生物について科学的にわかっていることは氷山の一角にすぎない事実からです。

褐色腐朽菌という菌類グループもあるようですが、セルロースやヘミセルロースといった炭素化合物はともかく、リグニンを分解する能力には長けていないようです。

そもそも、リグニンというのは、植物が細胞壁を強化し木質化するために自ら作り出す芳香族化合物ですが、その構造はあまりにも複雑すぎて、現代科学ですら、その構造を完全には解き明かしていないとのこと。

大昔、古生代石炭紀の終わるころに現れた白色腐朽菌は、リグニンを分解するための酵素:リグニンペルオキシターゼ等によってリグニンを分解しはじめ、これによって、それまでは元素循環ができず石炭化していたリグニンも、白色腐朽菌の登場によって分解(→無機化→循環)されるようになりました。

ちなみに、白色腐朽菌は好気性の微生物で、酸素がなければ死滅してしまうだけですので、うちの畑では酸素の行き届く土の表層にのみ有機物を施し、トラクターで土を撹拌して深いところに未分解の有機物を入れることは避けています。

深いところに生の有機物を入れてしまうと、嫌気状態で直接バクテリアによる分解を受けるため、腐敗分解による有害物質(アンモニアや硫化水素)などの発生で作物に悪い影響が出ると考えているためです。

植物(常緑樹等)への害(枯れたり、葉の色が変色したり等)は、植物周辺の環境気中のアンモニア(ガス体)…
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植物遺体という窒素比率の低い有機物(低タンパク質/高炭水化物)の自然な分解プロセスは、まずは糸状菌(菌類)による高分子リグニンの低分子化と、それ以降の他の微生物による2次・3次分解という流れを想定しているため、とにもかくにも菌類が酸欠にならないよう、圃場の排水や高畝などには気をつかっています

植物が必要とする養分の供給

うちのような無肥料(無施肥)栽培で、どのように作物に養分を供給するのか。

これまでに何度か質問を受けたりもしましたし、特に農家さんならやはり気になるところだと思います。

これについては、残念ながら科学的に明確な答えなどなく、現代科学でも土や微生物については未知な部分が多すぎて、そもそも說明不能ですので、推測で話すしかありません。

植物の生育に必要な元素は、必須元素といわれる窒素・リン・カリウム(+硫黄?)のほか、数多くの微量要素としてのミネラルがありますが、ここでは植物体をつくるのに必須の窒素について書いてみたいと思います。

窒素を無機態窒素(硝酸イオンやアンモニウムイオン)と有機態窒素(タンパク質やアミノ酸)で分けて考えると、まずうちの畑では無機態窒素は限りなく少ないと考えています。

電気伝導度(EC値)を計測してみても、もちろんその値がそのまま無機態窒素量を表すわけではないですが、その値は限りなく小さく、慣行農業の基準から見れば、今すぐにでも施肥が必要と評定されるレベルのものです。

2018年に就農してからというもの、1度も化学肥料を入れておらず、当初残留していたと思われる無機態窒素も、硝酸イオン(NO3-)などは、とうに雨水で溶脱してしまっているのではないかと思います。

ずっと水田だった圃場を畑として借り受けた直後、春先にアブラナ科の野菜を何種類か播種or定植してみたものの、ほとんど栄養成長を見せなかったことから、無機態窒素の土壌含有値はこの時点ですでに低かったのではないでしょうか。

その後、上記にとおり土の表層に落ち葉などの炭素有機物のみを入れるようにしました。すると、翌年の夏野菜が思いのほか成長し、虫などほとんどつかずに収量もまずまずの結果が出ました。なかには慣行と遜色のない収量の品目もありました(ミニトマト・ズッキーニ・オクラ等)。

夏野菜は果菜類が多いため、実肥と言われるリン酸養分なども必要ですが、それ以前に、株自体が栄養成長するために必須の窒素はどこからやってきたんでしょうか。

土のなかで起こっている現象を完全に観察・把握することは不可能に近いので推測するしかないのですが、前年の秋に入れた落ち葉が作物にとっての養分となった可能性は否めないと思います。

ただ、もともと水田で還元状態が長いこと続いていた土であり、好気性の微生物(とくに糸状菌)の生体量は少なかったはずです。落ち葉の分解もそれほど早くはない印象でした。

仮にすべて分解されたとしても、C/N比の高い炭素有機物にそれほどの窒素Nが含まれていたでしょうか。堆肥ではないので、もちろん家畜糞尿もゼロです。

とすると、土壌中のさまざまな窒素固定菌(アゾトバクターや放線菌フランキア、シアノバクテリア)の働きでしょうか。一説によれば、圃場1反あたりの微生物による窒素固定量は15kgほどに登るとか。

冒頭で書いたように、現代科学においてさえ微生物については未解明の領域があまりにも多く、おそらく地球上に存在するであろう微生物のうち1%程度しか発見できておらず、さらに生態までわかっているのはその内のごくごく一部だという話も聞いたことがあります。

そう考えると、微生物による窒素固定の作物への影響というのは、現代農学が捉えているレベルを超えるものなのかもしれません。

窒素に関していえば、それ以外にも菌根菌(とくにアゾトバクター菌根菌)の共生によるものや、落雷による大気中の窒素の酸化による窒素酸化物の生成も考えらえると思います。

植物の種類によっては、アミノ酸や低分子状態のタンパク質を直接根から吸収できるものもあるとか?とくにイネ科がその傾向が高いと聞いたことがあります。

「実践者」として・・・

いずれにしても、植物がどうやって生育して種を残すのか、といったような自然の営みを科学的に捉えようとするうえでは、ありとあらゆる未知の可能性を前提に考える必要があると感じています。

既知の科学的知識の範疇(科学常識)だけで考えているうちは、見えるものもなかなか見えてこないかもしれません。そういう意味では、知識を入れすぎるということは、ある意味固定観念や思い込み、バイアスを生んでしまい、まったく新しい発想ができなくなってしまうかもしれませんね。

今世紀中に100億人口を超えると言われている昨今ですが、僕は科学者という立場ではなく、いち農家という実践者ですので、その100億人みなが食いっぱぐれのない社会の実現のために、あくまで自分の立場でできることをやっていきたいと思います。