多品目少量栽培を選んだ理由(メリットとデメリット)

2020年4月3日

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シンフォニアファームとして2018年の秋に就農してから1.5年ほど経ちました。

就農時に選択した「多品目少量栽培(無施肥・無投薬)」も少しずつですが慣れてきたかなと思います^^;

今回は、その多品目少量栽培を選択した理由と、僕個人が考えるメリット・デメリットについてまとめてみます。

これから就農されようとする方にとって少しでも参考になれば、と思います。

少量多品目栽培を選んだ理由

これは結構シンプルな理由ですが、「超」がつくほど飽きっぽい性格だからです。

ひとつの品目の栽培をとことん追求したい!といった願望も特にはなく(これからどうなるかは分かりませんが)、いろんな作物に触れて、いろんな発見がしたい、という思いのほうが強かったことがあります。

もうひとつ理由を挙げるとすれば、これはちょっと言葉で表現するのが難しいのですが、「複数の品目の野菜を栽培することで、それぞれの品目の野菜の特徴や個性を知ることができる」と思った点です。

例えば自分自身という人間の性格を考えてみても、もしこの世に自分ひとりだけだったら、相対性がないので自分の性格がどんなものなのか的確に把握できません。多種多様な人間がいるなかにひとり存在する「自分」ということであれば、相対的に自分自身を知ることが可能になります。

次元は違いますが、生き物としての野菜も同じで、それぞれ生育の仕方や子孫の残し方など多種多様です。

それが、それぞれの作物を栽培する技術を身につける上で、相互作用というか、シナジー効果のようなものがあるのでは?と感じています。

また、それが単純に日々の面白さも感じさせてくれます^^;

とはいうものの、農業は趣味でなく仕事ですので、単にそういった理由だけで多品目少量栽培を選択したわけではありません。

自分なりに、無施肥・無投薬栽培との関連性や販売面での現実性、その他メリット・デメリットなどを検討しました。

多品目少量栽培のメリットは?

リスクヘッジ

まずメリットとして挙げられるのは、「リスクヘッジ」です。

具体的には、近年世界の農業にもさまざまな影響が出ている気候変動による不確実性に対するヘッジ(回避)のことです。

以前、とある果樹の専門家の方にお話を伺った際、とても印象に残る言葉を耳にしました。

「昔は毎年の気候にそれほど大きな差はなかった。それがここ数年は全く予想ができない現象(長雨・雨が降らない・酷暑・暖冬・大型台風など)が頻繁に起きるようになって、ベテラン農家の「勘」があまり役に立たなくなってきた。」

就農前に聞いた言葉でしたが、正直びっくりしたのを憶えています。なにせ、農業は経験がものを言う世界だと思っていたので。。。

もちろん自然相手の農業という営みはたいへん奥が深く、気候変動だけで経験が無駄になるということは決してありませんが、気候変動の営農への影響が決して小さいものではないという意味では納得です。

少々脱線してしまいましたが、世界の熱帯から寒帯までさまざまな気候帯を原産地にもつ複数の品種の野菜を同時に栽培することにより、同じ畑を襲う気候変動の影響のリスクを分散することができます

ちなみに、気候変動に対するリスクヘッジとしては、できるだけ「固定種」の野菜を栽培し、自家採種を繰り返すことで環境変化に適応させるということも実践しています。

固定種というのは、「固定された形質が親から子へ受け継がれる種」のことで、種苗業界の用語です。種苗業界では、複数の親から異なる形質を受け継いで、第一代目の子だけがその中で優性の均一形質を現す「交配種=F1」に対して使われ、親が単一であるために、単に「単種」と言われることもあります。

 F1誕生以前の植物種子は、すべて固定種として育成されてきました。そのため、すべての在来種の種子は固定種であると言ってもいいわけですが、たとえ伝統野菜とか地方野菜と言われる分野の野菜でも、形質が一定していない(固定されていない)野菜は、単なる「雑種」で、固定種と呼ばれることはなく、プロの種屋の販売対象ではありませんでした。種屋にとって、F1が生まれる以前は、本物の固定種だけが販売価値がある種子だったのです。

野口のタネ・野口種苗研究所HPより引用: http://noguchiseed.com/hanashi/kouen.html

販売面の都合

うちの農園で栽培する野菜はすべて「無施肥・無投薬」であり、基本的に「安売り」はしないと決めていました。それにもちゃんと理由がありますが、また脱線するのでここでは端折りますね(笑)

北米や欧州とは違い、日本ではまだ有機野菜などの需要は少ないと認識していますが、直売所やスーパーで見かける機会も欧米に比べれば少ないかと思います。

就農したての僕にとっての主な出荷先はおのずと地元の直売所(JA系列)ということになりますが、慣行野菜に比べて幾分割高な「農薬・除草剤不使用の野菜」を選ぶ消費者は、皆無ではないとはいえ、やはり少数です。

もし少ない品目数で営農し、1つの品目だけで多くの自然栽培野菜を収穫したとしたら、それがすべて直売所等で捌けるかといえば、なかなかハードルが高いと思います。

多めにお金を払ってでも自然栽培野菜の類を購入したいと考える需要層は小さいからです。

であれば、とりあえずは各品目の出荷数をその小さな需要に合わせて、その代わりに品目数を増やす、つまり多品目少量を採るのがベターな最適解だと考えました。

これがふたつめの理由(メリット)。

お客さん(生活者)との交流

うちの野菜は、上記の直売所だけではなく、ポケットマルシェという農産漁業品のオンラインマルシェでも就農当時から販売しています。

日本最大級の産直(産地直送)通販「ポケットマルシェ(ポケマル)」は果物・野菜・魚・肉のお取り寄せ・ふるさと納税に対応。生産者と心がふれあうお買い物体験をお楽しみ…
poke-m.com

僕自身がこちらのプラットフォームサービスで気に入っている点は、野菜などを買っていただけるお客さんと直接オンラインで交流することができる点です。

生産者ごとに以下のようなコミュニティがあり、料理してみた感想などを投稿してもらうこともできます。

兵庫県三田市のシンフォニアファームの伊藤祐介さんのみんなの投稿一覧です。日本最大級の産直(産地直送)通販「ポケットマルシェ(ポケマル)」の生産者プロフィールは、…
poke-m.com

個人的には、このようにお客さんと直接繋がれることがものすごくモチベーションにつながっています^^;

もちろん単品目大量栽培でもお客さんとの交流は可能ですが、一般家庭の主婦といったお客さんは、野菜セットのように多種多様な野菜を求められることが多く、特に多品目少量栽培の農家との相性がいいと感じています。

以上が、僕自身が多品目少量栽培を選んだ(メリットとしての)主な理由です。

多品目少量栽培のデメリット?

デメリットについても、おそらくは多かれ少なかれ存在すると思うのですが、僕自身にとっての一番のデメリットを挙げさせて頂くとすれば、それは人並み以上の「マルチタスク」の能力が求められるということでしょうか。

僕は以前から、どちらかというと「シングルタスク」向きな人間のようです。

上述の「飽きっぽくいろいろ幅広くやりたい」という部分と矛盾するようですが、そういった気持ちの面はさておき、実務的にはひとつの作業に集中して取り組みたいという気質なんですね。

多品目の野菜は、それぞれが性格の異なるものばかりで、栽培するうえでは播種の時期や方法、栽培管理法(温湿度管理など)や収穫後の保存法、自家採種法、料理のしかたなどなど、かなり頭を使います

ただ、それもいつかは慣れてくると思うので、一時的な大変さではあるとは思いますが、就農後の数年間は日々頭からプスプス煙が上がっていると思います(笑)

最後に

今回もだいぶ長文になってしまいました。

さて、多品目少量栽培のメリットやデメリットについて、極めて個人的観点からではありますが、自分の頭の中を整理するという意味合いも含めてまとめてみました。

これから就農を検討されている方にとって少しでも参考になれば幸いです^^;