農業と教養


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皆さんはこれまでに、「I型人間」や「T型人間」、「π型人間」や「H型人間」という言葉を見聞きされたことはありますでしょうか。

2007年、僕が新卒で入った企業の社員研修でも上のような「◯型人間」という説明がなされていたので、これらの概念が広まってだいぶ久しいようですが、簡単にいうと、それぞれ以下のような意味になります。

  • I型人間:
    ひとつの専門性を深めたスペシャリスト。技術職に多く、昭和の時代の日本では一般的だった。
  • T型人間:
    ひとつの専門性を持ちながらも、それ以外の分野にも広く浅く通じている人材。とりあえずゼネラリストとスペシャリストをかけ合わせたイメージでしょうか。
  • π型人間:
    専門分野が2つあるダブルメジャーで、ギリシャ文字の「π」(円周率で使われる)でその特徴を表しています。人材が少なく1社員1専門分野が難しい中小零細企業ほど重宝される人材像かもしれません。また、2つの専門性をかけ合わせたイノベーションも期待できます。
  • H型人間:
    自分自身は何かしらの専門分野を持ちつつ、他の専門分野を持つ別の人材とつながりを自ら作り出せるような人材像。本当の意味でイノベーションを起こそうと思えば、やはり複数人の間で化学反応を起こせたほうがずっと可能性があるわけで、まさに今この現代において重宝されるような人材像のような気がします。

I型人間ですが、昭和の高度成長期はともかくも、現代のドッグイヤー(あるいはマウスイヤー)とも言われるような技術や知識の陳腐化の激しい時代には、特定の専門性しかもたないというのはリスクが高いと言えそうです。もちろん専門性によっては陳腐化リスクの低いものもあるので一概には言えませんが、一般的な多くの産業では現実的ではないでしょう。

もうひとつI型人間について言うと、なにか有事があった際に、専門分野の深い知識があるだけの人間では対処を過つ蓋然性が高いということが言えそうです。2011年の福島原子力発電所の事故も、昭和的なI型人間がそのまま決定権を握る企業幹部となり、学際的な知見に欠けていたが故に、より適切な判断ができなかった、とも言われています。


そもそも僕は個人事業で超小規模な農業をやっている百姓ですので、H型とはあまり縁がなさそうです。性格的にこだわりが強く、自分で好きなようにやりたいタイプなので、あまり外部とのコラボを積極的にやろうということもありません。もったいない話と思われますが、仕事以前の「生き方」として、自分はこれが一番しっくりくるというか、無理なく長く続けられそうな働き方なのでそうしています。

とにかく幅広くいろんなことに興味をもつ人間なので、正直、これまでかなり広範囲のことを勉強したり経験したりしてきました。おそらくそれが、一人で何でもやらないといけない「個人事業主」として役に経っているのだと思います。

百姓=百のしごと」ということはこれまでにも書いてきましたが、そういう意味で、農業という仕事は、自分の裁量(責任)でやりたいようにできて、かつ自分が興味をもった多分野の知見(広く浅く)の多くも仕事に活かせるので、自分に一番向いた仕事なのかもしれません。


これからの時代は、間違いなくリベラルアーツといった人文力が求められる時代になると思います。海外のエリート養成学校(エリートという言葉はあまり好きませんが)でも、すぐ役立つような実学よりも、まずはみっちり歴史や哲学といった人間そのものを扱った人文学(humanities)の分野を学ぶように変わってきたそうです。変動性が高く、先が読めない時代を生き抜くには、与えられた知識や技術だけでは生き残れないのでしょう。

勉強は死ぬまで一生続けること。ここ1年では、世界史や日本史、地理学をざっと勉強しました。また古典名著や心理学、認知バイアスの本を読んだりしてきましたが、人間というものの傾向性を知れば、将来何か不測の事態が起こったときにも、自分がどう行動すべきかが自ずと見えてくるかもしれません。

T型にしてもπ型にしても、横棒にあたる部分として幅広く人文分野を学ぶことの重要さを感じる日々です。その上で必要に応じて実学も学び、そこから本当に好きになれる分野があれば、「好きこそものの上手なれ」で、専門性として自然なかたちで伸ばしていけばいいですね。

僕は興味の幅が広い人間で、とくに「これを極めたい」といったものが現状ないので、とにかく興味をもったものを片っ端から学んだりしています。固定しないほうが気が楽な質です。

もうひとつ、僕は農家として自然を相手に働いて、とくに自然の摂理にあわせた栽培法をとっているので、人や書物だけでなく、「自然」そのものから学ぶことができ、恵まれているなと感じています。

最後に、フランスの思想家モンテーニュの言葉(超訳から)を紹介して締めくくります。

「きみがたくましく生きていこうと思うのなら、人工にではなく自然にならうといいだろう」

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