中国古代自然哲学とこれからの農業


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こんにちは^^; 9月も終わりに近づき、ここ三田市は朝方の気温が下がってきて、少し肌寒くなってきました。皆さんがお住まいの地域はどうでしょうか。

実は今年に入ってから、東洋医学(中医学)や漢方に関する本を読み始めているのですが、まだまだ理解が浅いものの、知れば知るほど、本来人間の心身を対象にしている中医学も、実は自然栽培の畑にも大いに応用できるのではないかと、わくわくしながら学んでいます。

中医学(中国の伝統医学)では、その考え方の根本に古代中国の自然哲学があります。具体的には、陰陽論や五行学説、天人合一思想といったものですが、それは西洋的な、人間と自然をある意味対立的に捉える二元論ではなく、人間も自然の一部ととらえる包括的な思想に特徴があります。

そして、昨今では西洋医学ほか現代自然科学の各分野でも、東洋的な自然観・人間観を取り入れているようです。医学の分野では東洋医学を含めた相補代替療法を取り入れる統合医療の方向に進行しています。

洋の東西に優劣はありませんが、西洋的な価値観だけでは限界があり、自然と東洋思想を取り入れるという必然の流れだったのでしょう。そういった流れは社会科学分野にも及び、20世紀に活躍したエルンスト・フリードリッヒ・シューマッハという経済学者は「仏教経済学」という理論を打ち立てたことで知られています。


さて、僕は2018年秋に独立就農してまだ4年ですが、一貫して「無施肥無投薬栽培」を実践しています。

日本には肥料取締法という法律があり、そこにポジティブリスト方式で列挙されている各種肥料に該当しないものを、微生物のエネルギー源、つまりは食事として与えています。具体的には生の新鮮な落ち葉や籾殻、木質チップといった高炭素有機物で、堆肥化していないものです。

就農1年めはおそらく肥料分や農薬成分が残っていたためか、作物の生育は全体的にまあまあでしたが、2年め、3年めと続けるなかで、作物の生育は悪くなり、収量は減っていきました。3年めは夏野菜の苗自体がほぼ生育しないという状況でした。

ただ、この現象は、長年施肥栽培され続けてきた圃場を急に無施肥に転換した場合に起きうる現象として、過去に無施肥転換を経験されてきた農家によっても知られているところでもあり、一部の農学研究者も学術的に認めるところでしたので、自分の畑でも起こりうるものと、就農前から事前に認識(覚悟)はしていました。


ある日、中医学の本を読んでいると、中医学の世界に「瞑眩(めいげん)」という概念があるということを偶然知り得ました。

瞑眩とは、漢方薬や鍼灸・按摩といった東洋医学の処方・処置を行った際、症状が一時的に悪化し、不快感などの副作用が出る場合があるということを指します。

理由としては、処方・処置によって病邪に対する身体の免疫力や抵抗力が再び活性化し、身体が病と戦い始めるために一時的に起こる好転反応と説明されるようです。

この瞑眩という言葉を知った瞬間、畑で起こる上記のような好転反応も、自然現象として同様のものなのではないかと直感的に思いました。

つまり、長年施肥・投薬がなされてきた圃場の土はすでに病気の状態であり、さらに継続的な農薬使用によって対症療法的に表面的な症状(作物の病害虫や生理障害)が無理に抑えられてきたところに、突然無施肥無投薬に転換され、転換1年めはまだ肥料・農薬成分の残存があることから大きな禁断症状はないものの、2年めくらいから畑の土が自然本来の土の状態に戻ろうとする(すなわち抵抗力の回復)ために、禁断症状ないし好転反応が起こる、ということだと理解しました。

土とはいえ、それはただの無機物・無生物の集合ではなく、たった1グラムの土にも無数の微生物や原生動物が棲んでいることを考慮すれば、土そのものがひとつの生物体と捉えることもできます。

また、念のために付言しておくと、近代的な慣行農業が人類に果たした成果というものは非常に大きく、決して慣行農業をはじめとした施肥栽培を否定したり過小評価するものではありません。

とはいえ、脱炭素が喫緊の人類の課題となっている以上、いつかは、否できうる限り早い段階で、環境負荷がより小さく持続可能といえるような新しい農業のあり方を確立しないといけないことは言うまでもありません。


西洋的な自然科学的思考に慣らされた僕にとって(おそらく大半の日本人にとっても)、この瞑眩という概念のみならず、全く未知で新鮮な印象をうける概念や理論が、中医学はじめ東洋医学、ひいては根底にある東洋思想にはあるのだと実感しています。

僕自身は、東洋自然哲学的な自然観をベースにしながら、同時に近現代の自然科学の知見も十分活用して、自分なりの新しい農業のあり方を模索していきたいと考えています。

最後に、今回参考にさせて頂いた東洋医学の書籍を紹介して締めくくります。一般向けの入門書のようでありながら、その中身はかなり作り込まれている印象で、とても分かりやすく参考になる本です。

基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書

平馬直樹/浅川要 ナツメ社 2014年02月

by ヨメレバ