「肥料」の定義とは?

2022年10月3日

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法規上の「肥料」の定義

うちの畑では、いわゆる「肥料」を施さず、「無施肥」を謳った自然栽培を実践していますが、「肥料」を使わないとはいえ、やはり、そもそも「肥料」とは何なのか、と考えることがあります。

日本には、肥料そのものに関して定めている法律:通称「肥料取締法」がありますが、その法律の第二条において「肥料」は以下のように定義されています。

(定義)

第二条 この法律において「肥料」とは、植物の栄養に供すること又は植物の栽培に資するため土壌に化学的変化をもたらすことを目的として土地に施される物及び植物の栄養に供することを目的として植物に施される物をいう。

 この法律において「特殊肥料」とは、農林水産大臣の指定する米ぬか、堆肥その他の肥料をいい、「普通肥料」とは、特殊肥料以外の肥料をいう。

e-Gov 「肥料の品質の確保等に関する法律」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000127

第一項で上記のように定義されていますが、文面通り解釈すれば、「植物の栄養に供すること又は植物の栽培に資するため」といった目的を達成するために施すものが「肥料」ともとれます。

ただ、これだと施す人間の主観に依ってしまうため、その人が上の目的でない別の目的で施したとしたら、たとえ化学肥料であっても「肥料」ではないとなってしまいますので、単純にこの定義に当てはめて個別に判断することはできそうにありません。

当然のことながら、人の口に入るものを生産する圃場に施すものである以上は、人畜や環境への影響というものを無視することはできませんので、現実的には、肥料取締法によって「特殊肥料」および「普通肥料」がポジティブリスト方式で具体的に定められています。

まず、肥料取締法関連の告示として、「特殊肥料等を指定する件(昭和25年6月20日農林省告示第177号)」があり、執筆時点の直近では令和4年の2月にも改正されています。

ここで、農林水産大臣が指定するものとして、執筆時点で46種類が列挙されています。

(イ) 次に掲げる肥料で粉末にしないもの
魚かす、干魚肥料 、干蚕蛹 、甲殻類質肥料、蒸製骨、蒸製てい角、肉かす、羊毛くず、
牛毛くず 、粗砕石灰石(以上10種)
(ロ)
米ぬか 、発酵米ぬか、 発酵かす、アミノ酸かす、くず植物油かす及びその粉末、草本性植物種子
皮殻油かす及びその粉末 、木の実油かす及びその粉末、コーヒーかす、 くず大豆及びその粉末、た
ばこくず肥料及びその粉末、乾燥藻及びその粉末、落棉分離かす肥料、よもぎかす、草木灰、く
ん炭肥料、骨炭粉末、骨灰 、セラツクかす、にかわかす、魚鱗、家きん加工くず肥料、発酵乾ぷん
肥料、人ぷん尿、動物の排せつ物、動物の排せつ物の燃焼灰、堆肥、グアノ、発泡消火剤製造か
す、貝殻肥料、貝化石粉末、製糖副産石灰 、石灰処理肥料、含鉄物、鉱さい、微粉炭燃焼灰、
カルシウム肥料、石こう(以上36種)

農林水産省資料「肥料法の概要」令和3年7月 https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/attach/pdf/0729hiryo_setsumei-7.pdf

いわゆる堆肥やぼかし肥(発酵米ぬか)も、肥料取締法上の特殊肥料に含まれているようです。

一方、「普通肥料」のほうは特殊肥料以外の肥料とされていますが、こちらは具体的に「公定規格」というものが定められているようです。令和3年の改定によって現状138規格あります。

上記の通り、肥料取締法に定めのある「特殊肥料」および「普通肥料」に該当しないものは「肥料」とは言わない、ということになりそうです

当農園で使う資材について

これまでも機会あるたびにお伝えしてきましたが、うちの畑では微生物のエネルギー源として、これまで「落ち葉」や「木質チップ(剪定枝を細かく粉砕したもの)」などを畝のごく浅くに混ぜこんできました。窒素分が少なく、炭素率の高い、いわゆるC/N比が高い(40以上)といわれる資材です

目的としては、植物の養分になるものとして施しているというよりは、微生物のバイオマス量や多様性を増すことを目的としていますが、現実には長い時間をかけて、これらの自然の資材も分解されて、アミノ酸や各種無機態養分として植物に吸収されているのかもしれません。

ただ、土壌微生物が豊かな土であれば、アミノ酸といえ各種無機態成分といえ、速やかに微生物に利用されて代謝され、あるいは降雨により流脱するなどして、植物が直接それらの養分を「ストック」として吸収することは難しいのではないか、というふうに考えたりもします。

実際には、土壌中の複雑な微生物の生死・世代交代や多様な生体活動の連続のなかで、施した落ち葉等に由来する各種養分が、微生物の生体という器を経由しながら何らかの植物との共生関係のなかで植物に提供され、その見返りとして植物の光合成産物(糖類などの炭素化合物)を得ているのではないかと思います。

植物が養分なしに生育をしないのは理の当然であって道理でもあるので、落ち葉や木質チップなどの堆肥化しない生のままの資材(非肥料)であっても、それらを施していく以上は、少なくとも理論的には養分収支は保たれると考えられます。

「施肥栽培」だけにこだわるのか

昨今のコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻等で化学肥料の価格が爆上がりしていますが、それ以前に化学肥料は有限の資材です。世界はいわゆるオーガニック(基本的には有機施肥栽培)の流れに向かっているように思われますが、そうした流れ自体は人類にとって必要なことでしょう。

ただ、有機質肥料を制作するにも当然コストがかかるため購入すれば出費がかさみ、多くの高齢農家や女性の農家にとっては水分を多く含んだ堆肥を扱うのは非常に辛いものがあると思っています(あくまで一般化しない傾向としての話です)。堆肥やぼかし肥を自作するにも、温度管理や頻繁な切り返し作業などは非常に骨の折れる作業です。

大局的に世界の食の安全保障を考えた場合、こういった従来の慣行栽培や有機栽培(便宜上あわせて施肥栽培と括りますが)だけではなく、ほぼ無料で手に入り、手間や時間をかけて制作する必要性もない自然にある炭素資材を使って栽培をする「無施肥栽培」という道も、同時並行的に模索していく必要があります

ただ、最近発表された農水省の「みどりの食料システム戦略」の中身を見てみても、そういった思い切った方向性には舵は切れていないように思います。ドローンなどの文明の利器を活用した効率的な農業も必要ですが、もっと本質的な面を推進する内容であれば、とも思います。

「肥料」の定義の話から脱線してしまいましたが、国にはもっと、化学肥料であれ有機質肥料であれ「施肥」というものだけにこだわるのではなく、しいて言えば「超緩効性肥料」と言えなくもない、自然の炭素資材の活用についても検討してほしいところです。

と、国に期待だけしていても何も変わりませんので、これからも自分自身がそういった栽培のあり方を実践して、できる限り情報を惜しみなく発信していきたいと思います。